海野 徳仁 (東北大学 地震・噴火予知研究観測センター 教授)
私たちの研究は、理学の立場から、地震の発生メカニズムや火山の噴火の仕組を突きとめようとしているものです。この地震・噴火予知研究観測センターには、教員15名を始め総勢約60人のスタッフ・院生・学生がおり、様々な観測データに基づいて、地震、火山の研究をしています。
地震の研究とは、具体的には、地震の際に断層のどこが大きく動いたのかを地震波の記録から推定したり、精密なGPSで地殻変動を観測し、断層のどこがどう動くとその地殻変動が説明できるか等を推定し、発生した地震あるいは今後発生する可能性のある地震の発生機構を解明しようというものです。このような研究は、防災に直結するものではありませんが、防災研究を下支えするためには必要不可欠な情報だと思っています。
私たちは、以前から地震が発生する仕組み等について広く一般に情報を提供してきました。なかでも、想定宮城県沖地震の可能性については、「いつ起こっても不思議でない」という危機感を持って情報発信をしてきました。そのような中で、2011年3月9日にマグニチュード7.3の地震が、宮城県沖地震の想定震源域のすぐ東側で起こり、仮にこれが連動型地震の一部であるとすれば、「宮城県沖地震の発生は待ったなし」と考えていたところでした。しかし、3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震は、我々の想像を遙かに超えた超巨大地震となってしまい、その後の巨大津波で大きな被害が出てしまいました。
結果として、私たちの研究が、今回のような大地震を想定できておらず、地震学がまだまだ力不足だったと痛感していますが、私たちは地震および火山に関する研究をあきらめることなく今後も継続していくことに変わりはありません。
そのような懸念から、例えば、略奪が起こる条件とそうでない条件を明らかにして、略奪の発生を防ぐにはこうすれば良いという処方箋が描ければと思って研究を進めようとしているところです。略奪とかデマに右往左往させられて、避難生活が苦しくなるようなことの無いような社会的な条件を見つけ出すというのが研究の最終目標です。
東北地方太平洋沖地震が起きた時、私は地震・噴火予知研究観測センターの建物にいました。強い揺れを感じたときは「宮城県沖地震が来た」と思ったのですが、33年前に体験した宮城県沖地震とは揺れ方が違いました。周期も違うし強さも非常に強かった。これはちょっと想像を絶するものだと思いました。
今回の地震で我々のセンターの地震観測点のいくつかでは被害が出ました。仙台のセンターのデータ収集システムは4時間程で復旧したのですが、東北各地の観測点、特に、太平洋側の観測点からは地震や地殻変動の観測データが送信されてこなくなってしまいました。東北大学の観測データも国の基盤地震観測網のデータの一部で、頻発する余震の震源などを特定する重要な情報ですので、被災直後から観測点の復旧作業を全力で行いました。このような復旧作業の経験やノウハウは、次の災害への備えとして、他の研究機関の方と共有することを考えています。
一方、研究面では、「なぜマグニチュード9の地震が起こったか」をまず解明しなければなりません。私に限らず多くの地震学者は、日本の周辺でマグニチュード9の地震が起こるとは思っていなかったはずです。多くの観測データから、東北地方太平洋沖地震のマグニチュードが9だったことは間違いありません。なぜマグニチュード9の大地震となったのか、をきちんと理解するための研究をすぐに開始しなければなりません。今回の地震の理解が進めば、想定されている東南海・南海地震についても様々な貢献が期待できると考えていますが、一方で、一筋縄ではいかないとも思っています。
地震学はこの10年くらいの間に基礎科学として大きな進歩を遂げました。一方で、地震学は、「いつ、どこで、どの程度の規模の地震が発生したか」という過去の地震データに基づいて様々な検討をしています。今回の地震が想定外だったのは、過去の地震データの解釈を間違ったことも一因で、反省すべきことだと考えています。過去のデータに加えて、新たな観測データを正確に分析し,現在の地震環境をきちんと理解する努力をこれからも続けなければなりません。
そのために、私たちは、「歴史的な地震・津波に関する研究」と「海底での観測」に力を入れ始めたばかりでした。歴史的な地震・津波に関する研究では、貞観地震の全貌を解明するための研究を進めていたところです。一方、宮城県沖の海底にセンサーを設置して海底の地殻変動を繰り返し測定する研究も開始していました。海底での観測は、陸上の観測に比べて手間や費用はかかりますが、今回の被害状況を考えれば,このような取り組みは必要だと思います。日本海溝から沈み込む太平洋プレートは1年に約8cmで動いていますので、海底で地震波や地殻変動を直接観測することで、陸上での地震計やGPSによる観測では得られない有用なデータが必ず得られるはずです。
一例として、今回のような超巨大地震が発生した直後にマグニチュードを正確に決定する新たな手法の開発にも着手しました。リアルタイムGPSというシステムの観測データを処理解析して,東北地方太平洋沖地震のデータを試したところ、地震発生から3分45秒後にM8.7の推定ができました。地震波を用いたこれまでの手法より圧倒的に早く地震の大きさを推定できる可能性が見えてきました。さらなる手法の改良に取り組むことで、緊急地震速報の精度を向上させる可能性があります。
前にもお話ししたように、現時点では,地震学は直接的に防災に役立つ情報を提供できてはいないかもしれません。しかし、地震、津波、火山の噴火といった現象を理解しないで防災に関する研究は成り立たないでしょう。私たちは、防災研究の基礎となる様々な情報を提供し、防災研究を下支えするメンバーとしてこの研究拠点の設立当初から参加しています。
そのために、私たちは、「歴史的な地震・津波に関する研究」と「海底での観測」に力を入れ始めたばかりでした。歴史的な地震・津波に関する研究では、貞観地震の全貌を解明するための研究を進めていたところです。一方、宮城県沖の海底にセンサーを設置して海底の地殻変動を繰り返し測定する研究も開始していました。海底での観測は、陸上の観測に比べて手間や費用はかかりますが、今回の被害状況を考えれば,このような取り組みは必要だと思います。日本海溝から沈み込む太平洋プレートは1年に約8cmで動いていますので、海底で地震波や地殻変動を直接観測することで、陸上での地震計やGPSによる観測では得られない有用なデータが必ず得られるはずです。
また、地震列島に暮らす人間の基礎的な知識の向上のため、特に,小学校、中学校,高校などで,地震や火山に関する教育を今以上に充実させることが必要だと考えています。これは、私たち理学に携わっているものだけではできないことも多いので、防災科学研究拠点として取り組む事ができれば良いと思っています。
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