東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)に関する情報

インタビュー ~防災科学研究拠点メンバーからのメッセージ~


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レスキューロボットから災害対応ロボットへ

田所 諭 (東北大学大学院 情報科学研究科 教授)


災害対応ロボットを戦略的に整備する

 私はロボット工学を研究しています。ロボットと言うと、人間型のロボットを思い浮かべるかもしれませんが、私が防災に関連してやっているのは、レスキューロボットと言うもので、災害時に危険が伴うようなことや人間ではどうしてもできないことを安全にしかも効率的にできるようにするためのロボットの研究開発です。

 私がレスキューロボットの研究開発に取り組み始めるきっかけとなったのは、阪神淡路大震災でした。私はそのとき神戸にいたのですが、鉄腕アトムのように困ったときに現れて助けてくれるロボット、つまりレスキューロボットの研究は誰もやっていないことに気が付きました。この分野を立ち上げることが神戸の研究者の義務だと考え、その後、一生懸命に研究をしてきました。これまでの成果として、例えば、倒壊家屋の中から人を救助することに対しては、できることが少しずつ増えてきた段階です。

 一方、津波災害に対しては、今までほとんど研究がなされていません。津波に対してロボットに何ができるかはこれからの研究テーマですが、少なくとも復旧活動のお手伝いはできると考えます。例えば、早期復旧のためにがれきが多いところのヘドロをかき出す技術とか、被災地のセキュリティを守る技術といったものです。また、ロボットは情報収集も得意なので、危険な場所での情報収集なども考えられます。今回の災害を通じて、津波災害でも役立てることができるツールを整理しなければならないと考えています。




 原子力発電所の事故でもロボットが注目されていますが、使われているのはアメリカ製ばかりというような報道もあります。これは、日本のロボットがすぐに使えるように配備されていないという問題を示しています。日本は、研究としては世界トップクラスの機能を持つロボットを作っているのですが、製品になっていません。原子力を例にとると、アメリカは軍隊、フランスやドイツには原子力災害に対応する専門組織があり、そこに、ロボットや機械などが備えられているのですが、日本にはそういった専門機関はありません。それは、原子力災害に限ったことでなく、日本の災害対応機関にレスキューロボットは配備されていません。消防も地方自治体の管轄のため、自治体の限られた予算ではどうしてもロボットの配備が進みません。レスキューロボットの開発と配備を戦略的に進めるような体制をつくっていくことが社会としての課題です。

東日本大震災では

 今回の災害では、想定外を想定することの重要性が認識されました。想定外といろいろなところで言われますが、想定外に対するアナリシスが、きちんとできていなかったのではないでしょうか。ある部分を想定外とするのは仕方がないことですが、想定外のことが起きたときに被害を最小限にできる対策がなかった。例えば、原子力では、想定内のことについては徹底的に技術開発がなされ、相当に安全になっていたはずです。ところが想定を超えたときにどうなったかというと、何もないという状況になった。それはあらゆる災害についても同じだったかもしれません.

 このようになってしまう原因のひとつは、いろいろなことを考える際に非常に狭いところに的を絞って考え,それ以外は考えないということになってしまっているからだと思います。災害は複合事象なので難しいとは思うのですが、考えの範囲を自分のエリアに押し込めるのではなく、総合的に考えることができる枠組みが必要です。

 今、被災者の方にとって一番必要なのは、仕事の確保だと思います。いま東北の被災地はどこでもひどい状況ですが、家があって暮らす場所が担保され、仕事ができて収入が得られるようになり、自分たちで復興できるようになる必要があります。今まで動いていた漁業、観光、農業が動かなくなり、仕事がないとなるとどこかに出て行くしかありません。若い人はそれでもまだ良いのですが、お年寄りはどうしようもなくなってしまいます。仕事の確保という問題が解け、みんなが食べていけて仕事があるということになれば、地域の復興や他の問題も自分たちで着実にやっていけると思います。

防災全体からみたロボットの可能性を問い直す場所として

 これまでロボットの研究者は、提示された問題の解決にむけて努力をしてきました。レスキューロボットの研究では、救助という局面の問題はよくわかっているつもりですが、それ以外のことは見えていない。つまり、防災全体がよく見えていないことが、復旧や復興に役立つロボットの研究・開発の課題のひとつだと思っています。また、被災者のケアなどでも,ロボットにできることはたくさん有り、その方面の研究もやっていかなければなりません。そう言う意味で、災害科学研究拠点の一員として、他分野の方と話をしながら研究開発ができることに大きな意義があります。

 防災全体からみて救助以外にもロボットの活躍できるところが整理されれば、今後の研究展開が進むでしょう。幸いにも、ロボット工学者はシステムを考えることが身についています。いろいろな技術やデバイスを組み合わせて、目的を達成するためのソリューションを考えることができるので、ロボットにできることは非常に多いと思います。10年、20年のスパンで大きなことができると期待しています。

 国際的な拠点を意識したとき、日本は、安全安心のための技術で世界のトップレベルにあり、日本の技術を開発途上国にどんどん教えていかなければならない立場にあります。開発途上国にはお金がないから日本の技術はそのまま適用できないとも言われますが、途上国もだんだん豊かになってきています。都市部は開発が進み人口密度が高い状況にある一方で、インフラは依然として脆弱なため、リスクとしては非常に大きなものを抱えています。日本の持つ安全技術をきちんと伝え、一緒にやっていくことが重要でしょう。

 一方、開発途上国で適用可能な簡易なものも必要です。ただ、そのようなものの開発においても、最初は高度なものの追求が必要です。高度なものを作り上げる段階を省くと結局良いものができません。高度なものを作り上げたうえで、本当に必要なものにそぎ落す。そうすることで、商業ベースにもなるし、途上国でも使えるものができると考えています。

 私には、レスキューロボットの分野を先導してきたという自負があります。今後もこの分野を積極的に引っ張っていき、救助に限らず防災全般に役立つロボットの研究を推進していくつもりです。












 田所 諭(たどころ さとし)
 東北大学大学院 情報科学研究科
応用情報科学専攻 教授
 博士(工学)

 専門:ロボット工学
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