東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)に関する情報

インタビュー ~防災科学研究拠点メンバーからのメッセージ~


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情報・報道を通して災害と社会を観る

佐藤 翔輔 (東北大学 災害制御研究センター 助教)


東日本大震災を理解するために

 私は、2011年4月から新しく災害制御研究センターのメンバーになり、同時に防災科学研究拠点のメンバーに加えていただきました。

 3月までは、京都大学防災研究所の大学院生として、災害によって発生する社会の変化(「社会現象として災害」)を関心領域として,情報学の技術と社会科学の枠組みを組み合わせて、災害後に発生する様々な「言葉」としての情報を定量的に解析する技術を開発したり,それを用いた分析によって現象を解明する研究を行ってきました。私は元々、土木工学のバックグラウンドを持っているのですが、情報・社会という切り口で災害やそれを取り巻く社会を見ることに興味が移り、大学院では情報学や社会科学を武器にして災害に関する研究を行ってきました。具体的には、災害に関するインターネット上のニュース報道や、社会調査(アンケート調査)で得られる自由回答を統計的に分析し、特徴的な記事・回答やキーワードを明らかにしたり、キーワードの時間的な変化を可視化するシステム(TR、トレンドリーダー)を開発してきました。これまで、中越地震、中越沖地震をはじめとして,風水害や新型インフルエンザなどを近年発生した主な災害・危機を対象に研究を進めてきました。その結果、インターネット上の世界で語られている災害ごとの普遍的な特徴や,地域特性や社会的背景によって異なる特殊性があることがだんだんわかってきています(図1)。



図1 Yahoo!ニュースにみる中越地震と中越沖地震のキーワードのふるまいの比較

 現在、取り組んでいるのは、他の先生方と協力して実施している「東日本大震災のアーカイブの構築」と、これまでの研究を発展させた「東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)に関するWeb情報のTR解析」の2つです。

 「東日本大震災のアーカイブの構築」は、震災の記録を電子的にアーカイブし、今後、研究者が様々な視点から分析ができるような形にすることを目標に、地震のゆれや津波の痕跡などの観測・調査記録、建物やライフラインの被害分布、360度カメラによる被災地の映像、新聞報道や雑誌、インターネット上のニュースやブログなどのドキュメント、避難所に掲示される広報資料など、東日本大震災の自然的・社会的な側面に関するありとあらゆる情報をプロ(研究者)の視点から徹底的に集めています。防災科学研究拠点には、工学、理学、地学、心理学、情報学、経済学、医学、歴史学など様々な視点と専門性をもった先生方が在籍しています。災害という現象は、しばしば「多面的である」と言われますが、こうした多才なメンバーが、それぞれの視点によって、この大震災に関する情報を集めて統合することで、多面的・包括的な「東日本大震災の像」が構築できると考えています。これを共有することで,先生方の英知を融合した学術な研究につなげられることを期待しています。なお、本アーカイブの構築には日本IBM様から技術開発・運用にいて多大なる支援をいただいています。

 「Web情報のTR解析」は、インターネット上のニュースを用いて、災害の現況を簡易的に認識してもらおうという取り組みです。インターネット上の情報量は大変多く、それを検索したり、読んだりするだけで大変多くの時間と手間を要します.そこで、東日本大震災を報道するインターネット上のニュースを自動的に集め、それに含まれる言葉を統計的に分析し、その結果に基づいて、膨大なニュース記事の中からその日の特徴を最も象徴するような記事を5件に絞りこみます。同時に、特徴的なキーワードのトレンドをグラフ化し、以上と併せてホームページ上で公開して、社会がこの災害をどうとらえ、災害によって社会どのように変化したのかをホームページやeメールで発信することを試みています(図2)。



図2 東北地方太平洋沖地震に関するウェブ情報のTR解析のホームページ画面

 この取り組みによって、本震災に対する世論の動向を容易に把握できるだけでなく、研究が進んで行けば、将来的には、ニュースで語られるキーワードから被災地の社会の動きをある程度推測し、様々な対応の先手を打つためのツールになるのではないかという期待があります。なお、今回の災害は被災の範囲と規模の大きさのためか、記事の件数が特に多いことから、すべての記事を対象にした解析のほかに、原子力発電所の事故や関連する対応、岩手県、宮城県、福島県の記事に分けた解析を行い、細やかな情報発信に努めています。


東日本大震災は、災害対応に対する意識を変える出来事

 私には、災害対応の主役は限られた人、例えば、被災自治体の方や県や国の災害対応関係の方がするものだという意識がどこかにありました。しかし、メディア等の「オールジャパン」や「今自分にできること」という言い方にも現れているように、このような大きな災害になると、災害対応は被災していない人も含めた全員でやらなければならないものだということを認識させられました。

 これに関連して、これまでの災害に関する社会の研究は、被災者の方や災害対応をする自治体の方を主役にした研究が多かったと思いますが、今後は、被災していない人にも焦点をあてた研究も必要だと思うようになりました。そういった研究を進めることが、このような大きな災害、国全体での対応が必要となる災害をうまく乗り切るのに役立つのではと、漠然ですが思っています。

報道を継続・充実することで見落とされる地域や現象をなくして欲しい

 私が今の時点で思うことは、被災地に関する報道量を減らしてはいけないということです。過去の災害や今回の災害に関するウェブニュースを分析していくうちに、実際には人的・物的な被害が厳しい状況であるのに、報道では相対的に注目されていない被災地があることや、注目そのものがされていない現象が多くあるということがわかってきました。今回の震災では、全国的な報道において、原発事故に関する報道が多いのに対して、女川町や山元町などは報道が少ない傾向にあります(図3)。



図3 Yahoo!ニュースにおける東日本大震災のサブトピック別の記事件数
(2011年4月11日,震災から1ヶ月間)

 中越地震でも、当時、私が在学していた長岡高専(新潟県長岡市)は壊滅的な被害を受けたにも関わらず、全国的な報道は多くありませんでした。被災地外の人のとっての東日本大震災に対する認識の多くは、報道によってなされているのは事実です。報道がない、もしくは報道が少ない地域は見落とされがちになり、様々な対応から取り残される可能性も否定できません。そういった注目されていない地域を見落とさないためにも、被災地や災害に関する報道は続けていくべきであると考えます。

多分野の融合が強みに

 東北大学防災科学研究拠点の特徴は、冒頭に述べましたように多岐にわたる分野の先生方が参加し、バランスが良いことにあると思います。多くの先生方は、これまで災害だけに特化した研究を行なってきたわけでなく、それぞれの専門の関心領域の中で研究の技術を磨かれています。災害という現象を洗練された元々の専門領域の立場から見つめ、それぞれの分析枠組みや手法・ツールを使いながら、災害・防災に関する問題にアプローチすることは、それぞれの一面を深彫りした研究が行えることになります。つまり、本拠点は、災害事象のあらゆる側面に対応できる研究とそれに基づいた実践的な提案ができる組織であると考えており、そういったことが研究拠点の強みになっていくと思っています。

2011年東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)に関するウェブ情報のTR解析ポータル
※解析結果の更新通知メールのお申込は trendreader@drs.dpri.kyoto-u.ac.jp まで













 佐藤 翔輔 (さとう しょうすけ)
 東北大学 災害制御研究センター 助教
 博士(情報学)

 専門:災害情報学
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