東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)に関する情報

インタビュー ~防災科学研究拠点メンバーからのメッセージ~


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レーダー技術を防災の様々な局面に

佐藤 源之 (東北大学 東北アジア研究センター ディスティングイッシュトプロフェッサー)


災害救助から災害発生のモニタリングへ

 私は、レーダー技術の研究、中でも、地中の様子を調べる地中レーダー技術の開発研究を中心にしています。地中レーダーの研究は30年前くらいからやっていて、主に、地下水や環境に適用するため研究開発をしてきました。その技術開発の延長で、近年では、地滑りなどの土砂災害で被災した人を探すことや、地雷の除去作業などを手がけてきています。



地中探査用のレーダー機器

 また最近では、3年前の岩手・宮城内陸地震で大規模な地滑りを起こした宮城県栗原市・荒砥沢を対象に、レーダー技術を応用した地滑りのモニタリングも始めようとしています。荒砥沢の保全や活用において、周辺住民や訪問者の安全を確保するために、1mm程度のものが動いてもわかるような高感度なレーダーを設置し、高解像度のカメラ技術などと組み合わせ、ネットにつないで長期にわたり常時モニタリングをするというものです。モニタリング結果と警報を地方自治体に提供することを目的としていることに特徴があると考えています。



荒砥沢のモニタリングに利用予定のレーダー

 一方、レーダー技術と津波の予測というのをすぐにつなぐのは難しいと思っていまが、東日本大震災を受けた研究展開として、レーダー技術による復興状況のモニタリングや、衛星や飛行機でとったデータで建物の被災状況を理解することを考えています。レーダーでデータをとることで、そこにあるものの種類が解るので、長期的にモニタリングすることで違った側面からの復興状況が見えるかもしれません。一方、レーダーは画像と違い、屋根の下の状況を捉えることができる可能性を持っているので、写真だけではわかりにくい建物の被災状況を的確につかむことに貢献できるのではないかと考えています。

 このように、研究開発の重点が、災害救助を中心としたものから災害のモニタリングや災害後の状況把握などに展開していますが、技術そのものがものすごく変わってきているわけではありません。社会の要求の変化に合わせた研究展開になっているのだと思いますが、このような変化にも、これまで山岳災害で培ってきた技術を応用することでやっています。ただ、今回の津波被害があまりにも大きかったために、山岳災害の重要性は変わらないにもかかわらず、山岳災害の視点が少し落ちてしまっているような感じがするのが気になるところです。

東日本大震災の対応では

 地震当日は、1978年の宮城沖地震の方が今回よりも大きい地震だと思いました。街の中を歩いたときに感じる被災の大きさは、明らかに前回の方がひどいものでした。強い震動に対しては、仙台の街は30年前に比べて圧倒的に強くなっています。我々が経験を積み、耐震・免震技術がうまく機能したとことの実証だと思います。津波は想定外であったのかもしれませんが、それ以外はうまくいっていたのではないかという気がします。

 東日本大震災を受けて実際に行ったことの一つが、福島県いわき市で起きた陥没や出水の調査です。陥没や出水が昔の炭鉱の跡の落盤との関係が危惧されていたのですが、大規模な落盤が起きている兆候は見られませんでした。ただ、鉱山活動があったところの近くでそれらの現象が起きていることは確かなので、地中レーダーで調査をしたところ、水が湧き出てくる経路はかなり明確に捉えることができ、その経路がボーリング調査によってもある程度確認されました。今は、最初の調査よりも深いところを調査できるレーダーを使ってさらなる調査をしているところです。

 もう一つ今回の震災に直接関係することで、取り組み始めたのが地中レーダー技術による遺跡の調査です。津波を受けて住宅の高地移転が検討されています。住宅地の開発には遺跡の有無の確認が必要なのですが、移転先として検討されている高台は昔の人が住んでいた可能性が高い場所で、そこを開発しようとすると遺跡が多く出てくる可能性があります。今回の場合、被災した方々の早期の生活再建が求められていますので、ゆっくりとした調査を行うことが許されず、広い範囲をなるべく短期間できちんとした調査をすることが求められます。私たちは、遺跡調査という観点でも地中レーダーの応用をやっていましたので、今回のように広い範囲を短期間で調査するため、レーダー技術の導入の検討をしている最中です。技術的にはできるものなのですが、正式な導入に向けて、まず、技術的検証から行うことを提唱しようとしているところです。

災害科学研究拠点

 東北アジア研究センターに所属している関係で、中国、韓国、モンゴル、ロシアといった国々と、専門であるリモートセンシングやレーダー技術を通じがおつきあいをする機会が多いのですが、そういった中で感じるのは、大地震という同じようなタイプの災害が起きても対処の仕方が違うということです。いちばん心配なのは、災害に対しての対応が適切に行われないのではないかということで、そういった場面に対応するため、日本の進んだ技術でうまく対応できるような体制を早く整えておく必要があります。ただ、どんな技術も実践を積んでいないと役には立ちません。私たちの技術は、例えば栗原市において、実践的にやってきているので、実際に何かやれと言われたらやれる自負があります。

 また、個別な事例として、モンゴル科学技術大学に地中レーダーを一式置いてあります。モンゴル科学技術大学にいる東北大の元留学生に。いつでも何にでも使って良いと言って置いてあるのですが、地下水調査や若干の遺跡調査にしか使っていないようです。レーダー技術の適用範囲は広いので、様々なことに使って欲しいと思い置いてあるのですが、なかなか多方面への活用ができていないようです。せっかくなので、レーダー技術の活用を展開する拠点作り、技術センター的な活動ができれば良いと考えています。

 国際拠点化ということでいうと、電波技術を山岳とか都市とか津波も含めてすべて網羅するような研究グループを組織することを提案しています。具体的には、ドイツ、イタリア、スウェーデンのグループと一緒に研究をしていこうと提案をしているところです。災害の種類が近いような国々と知識や経験を共有するのは重要だと思います。その上でそういう技術をアジアの国に対して出せる準備をしておくことが拠点としての役割ではないでしょうか。この拠点が国際拠点と言うことである程度大きなストラクチャーができたら、そういった研究者交流を盛んにしていきたいと考えています。












 佐藤 源之 (さとう もとゆき)
 東北大学 東北アジア研究センター
 ディスティングイッシュドプロフェッサー
 工学博士

 専門:応用電磁気学、レーダー技術、地下探査
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