東北大学
大学院工学研究科
附属災害制御研究センター
地域防災ゼミ2004 討議メモ 2004/5/18
当日の参加者数 民間企業:18,行政機関:10,大学関係:13
※この討議メモは,聴講者のメモを総合して作成したものです.不適切な点がありましたら(牛山)までお知らせ下さい.
首藤先生
- Q.田老町の避難訓練の参加者数について,阪神大震災後の落ち込みが大きいようだが,その理由は何か調べているのか?
- A.理由について特に調べてはいないが,減少は若い世代の参加が減少したためだ
と考えられる.かつては昭和三陸津波があった3月3日の朝に訓練をしていたも
のを,冬場の訓練を避けて9月3日に行うなどしているが,参加者はどんどん減っ
ている.水防団も高齢化しており,80代のおばあさんを70歳近い団員二人がかり
でリヤカーに乗せて避難するようなこともあり,訓練でも高齢化が問題である.
また,若い人の間では立派な堤防ができたことに安心することも問題である.そ
れを助長したのは1968年の十勝沖地震津波である.チリ地震津波のあとに全国に
5.5〜6mの堤防ができたが,その直後に十勝沖地震津波がきて,たまたまチリ津
波対策の堤防の高さよりも津波が小さく,被害は宮古湾の奥で一件だけであった
.それを見て,堤防があるから津波は大丈夫だというのがふつうになり,いくら
経験者が津波の怖さを語っても津波の大きさに誤解があり,一生懸命防災対策を
しようとはしない.これまで経験した津波で一番大きかったものはと聞くと,チ
リ津波という声が上がるが,この津波は全国で影響を与えたがローカルな影響で
は中規模の津波であり,昭和や明治の津波の怖ろしさなどが伝わっていない,ハ
ザードマップを配るなどいろいろなことをしても,相川の事例のように半分ぐら
いはどこまで津波が来たか知らないということにもなる.このようなことが防災
訓練に若い人が参加せず,参加するのは昔を知るお年寄りばかりということを反
映しているように思われる.
- Q.宮城県ではチリ地震津波の高さで海岸の対策などをとっている.河川の防潮水
門を耐震化したり自動化しているが,シミュレーションなどによるとそれを大幅
にこえる津波がくる,津波がくるときはとにかくはやく逃げるようにという体制
をとるのが先決だと思われる.行政側ではハザードマップを作成し,一部避難場
所が想定浸水域の中にあることなども今回公表する.市町村が避難勧告を出すわ
けだが,県としてはこれからどのようなことに取り組むべきか?また,高台に移
転する政策が話の中にあったが,現在は忘れ去られてまた住民が戻ってくるとい
うことだった.将来的に30年以内に必ず地震が来るという中で,そういう政策を
とっていくことはどうか?
- A.津波相手では何があるか分からず,相手が自然であるから我々が思ったとおり
に自分を発現してくれるとは限らない.命を失ったらそれでおしまいだから,そ
の点をしっかり地元に伝えていくことが必要だ.宮城県でもいろいろな数字を公
表しているが,その数字の持つ意味をきちんと理解してもらわなければとんでも
ないことになるかもしれないと思っている.それは例えば,津波の到達時間が細
かな数字で発表されているが,3桁の数字で出されるとみんなその数字が正しい
と思ってしまう.一つの目安としてはいいのだが,例えば到達時間で38分という
数字が出ていれば, 25分後に避難すればいいのかと考える住民もいる.高地移
転のことは,潟のある海岸に公園をつくるため,高台に民間が造成した土地に移
転できるよう行政が便宜をはかった例もあった.低いところに降りて住むなら,
堅固な建物にしたり,高台へ避難するなど対策を考えるべきだ.構造物は作って
から30-50年に1回ぐらいの津波には効いてくれるが,それで大丈夫だという考
えではよくない.構造物は作られた瞬間から弱くなっていき,50年も経つとぼろ
ぼろになっていたとしても不思議ではないが,津波防災構造物の立場は大変つら
く,作ってから100年以上もってくれないと意味がない.構造物には維持に気を
つけなければならず,コンクリートの表面に草が生えているようでは内部に空隙
を生じていることもある.見かけをよくするために植栽をすることもあるが,内
部の欠陥がどうなっているか点検することを難しくしている.2線堤ならよいが
,1線堤なら作ったあとにどうするか,手入れができるようにしておかなければ
ならない.津波防災で一番大事なことは何かあったらすぐ逃げる,低いところに
家を建てるときなどはここは危険だという意識を持ってもらうことが重要である
.
寺田先生
- Q.現実のリアルワールドがあり,計算機のバーチャルワールドがある.理論の柱
と現象の柱があって2本の柱で桁がそろったところから設計や防災に取り組むべ
きではないか.いかに実験をからめていくか,システムを連立していくかという
課題もある.興味がある分野としては,現象の予測という面である.理論から現
象を予測して考えていくこともできると思う.分かった現象をVSHで教育に使う
と効果があると思うが,使い方によって使い方を間違えるということはないか?
- A.情報提示の仕方によっては間違った情報も映画のように本当のことに受け止め
られてしまうこともある.どのレベルの精度をを持った計算結果をどういう風に
見せるか,今は住民に見せられる段階ではないが,これから考えていきたい.
- Q.個々の技術要素としてはまだ分かっていないこともある.世の中の学問レベル
とどう調和させていくかも難しいが,今後一気に進む可能性もある.ツール開発
としてどんどんよくしていくべきだが,我々技術者や科学者が提供する情報の精
度がどれくらい一般の方に必要なのか,このシステムがあると手探りの部分が一
歩や二歩が分かるような気がする.これまでわかっているものに対して使うこと
には非常に興味がある.津波とも共有すべき問題だが,要素技術が全体にわたっ
て確立しているならばそれを集めてきて提示することはかなりいい.しかし津波
でも分からないことがいっぱいある.現在は3桁も数字が出ているが,それが信
用され悪用されることもある.要素技術の精度がどれぐらいあるか,信頼幅など
でうまく提示していくべきではないか??
- A.社会技術の方に問題があるが,どちらかというと要素技術を作る側であって,
例えば社会経済をやっている人や住民がどこまでの精度を求めているのか分から
ない.精度についてどちらがシーズでどちらがニーズかということもあるが,ま
だ分からないところも多い.
- Q.地盤が絡んできたときの精度と,建物の精度が相当違う.これをいっしょに解
くとどこで精度が合うのか?震源から計算していくとオーダーが異なる答えが出
る場合もある.オーダーが違う精度のものをいっしょに解いていくことの技術的
な考え方はどうか?
- A.ちょっと精度が悪いところがあるとそこで計算が止まってしまう.社会的なコ
ンセンサスで動いている部分もあるので,一気に解いていくことが難しい場合の
社会的認容性も今後議論していかなければならない.